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株で絶対に負けない方法は「株をやらないこと」です。
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緑の画面。死屍累々。
昨日はブログ更新なんて、まるでする気になれなかった。
理由は一つ、そう一つしかない。

ギリシャの総選挙が終わって、オレは「今後の株式市場は大幅下落に見舞われる」と読んだ。
今まで損を重ねてきたオレは、この「わかりきった下落」こそ最大のチャンスだと考えた。
オレはこのビッグウェーブを逃してなるものか、と張り切って空売りをかけた。

とはいってもここ数日は上昇相場。
大型株はアメリカ市場の如何で地味な上昇を継続する可能性があるし、筋が介入してそうな仕手株への参入は過去の経験からいって怖くもある。
そこで悪材料が投下されたらしき小売業の銘柄に狙いをつけてあれもこれもと飛び込んだ結果、死亡遊戯が始まった。

オレの選んだ銘柄は揃いも揃って急上昇。
華麗なる右肩上がりの日中足、見事なまでの大担ぎ。
地合いは悪いというのに、オレの売った銘柄に限って上昇しやがる。
指標なんて見るだけ無駄。繰り返される損切り。新たにエントリーしての含み損。

これほどまでに連続する惨敗が未だかつてあっただろうか。
オレが損をするスピードは、日本市場が大幅に売り込まれた四月五月をはるかに上回るほどのものだった。

昨日は帰るなり酒を飲み、株神様の御神体を抱いて眠りについた。
日をまたいでの翌日、多少は戻してくれるであろうことを期待しながら。

今日の朝、死んだ目で仕事に行き、少しでも株価が戻してやいないかと携帯を見つめ続けた。
しかし酷いことに逆転と思しき現象が起きそうな相場ではなかった。
少しの下落が起きた瞬間は「底で投げるよりはマシか」と数万にも及ぶ損切りを繰り返し、今度こそはと新しい銘柄を空売りする。
しかしそれもまた巨大な含み損へと早変わりし、損切りするタイミングだけを考えて、悲しい決済を繰り返す。

戻すどころの話ではなかった。
昨日の損に上乗せして資産を減らすだけの一日だった。

もうダメだ。
二日続けての惨敗。
参入した銘柄は10ほどはあったはずだが、全てにおいてオレは負けた。

大引けの5分前。
オレは鬱な気分で土日過ごすよりはいいかと思い、残った銘柄も全てぶん投げた。
資産残高は見る気も起こらなかった。

仕事が終わって、もはや生きる屍と化したオレ。
斉藤が「どうしたんですか、九電さん。体調悪いんですか」などと聞いてきたが、曖昧な返事を残してオレは立ち去った。

独り電車に揺られていたとき、オレはふとアミのことを思い出した。

オレの知り合いの中で、オレが株をやっていることを知っているのはアミだけだ。
オレはこのたとえようもない鬱々とした気持ちをどこかに吐き出したかった。

隣の駅で降りて、異様に重い足を引きずってアミの店に向かう。
アミは初めて会ったときと同じような満面の笑みでオレを迎えてくれた。
オレがあの日、アミの出したカクテルを気に入ったからか、アミはまたも得意そうにカクテルのシャカシャカをやってオーシャンブルーフィズを振舞ってくれた。

どんなことを話したか。
いつも以上に飲んだせいでよく覚えていないが、オレが株で大負けしていること、株は結局丁半博打に過ぎないこと、ブログをやっていること、何事にもやる気が起こらないこと、概ねこう言ったことを話したように思う。

早い話が愚痴みたいなもんだ。
アミのように酒を飲む客の相手をしている人からしたら、オレのような客は珍しくないのかもしれない。
アミはオレの沈んだ心境に合わせるように神妙に話を聞いてくれていた。

「九電さん、株やめたら?」

今までブログのコメントや掲示板で何度も言われたことをアミが言う。
しかし、負けた後に「やめたら?」と言われて、それで納得しているようなら、今のオレが株なんてやっているわけがない。
ネット上で散々バカにされて、それでも株を続けるのは、まだオレに可能性が残されているからであり、今日や今週や今月がダメでも、その次は大逆転できるかもしれない、と信じているからだ。

「九電さんって、正社員なんでしょ? お金あるんでしょ? 将来安泰なんでしょ? なのに、なんで株なんかやるの?」

アミが心配そうな顔でオレを見てきた。
しかしオレは目を合わせなかった。

お説教なんぞ聞きたくない。
アミの「やめたら?」は、今までオレが何度も黙殺してきた何の役にも立たないアドバイスだ。
オレはアミを無視してカクテルを煽り続けた。

「私ね、身近な人でギャンブルやってる人知ってるの。ああ、その人はギャンブルじゃなくて、投資だって言ってるんだけどね。FXってあるでしょ? あれをやってるんだって」
「…………」
「でね、その人が言うには、勝つか負けるか不確実な物がギャンブルで、正しい手法を使えば必ず儲かる物が投資なんだって。自己投資って言葉あるでしょ? たとえば英語を勉強するために英会話教室に通うだとか、そういうヤツ。英会話って、勉強すれば誰でも身につくものじゃない? 確実にお金は払うけど、確実に身につくってわけ。英会話教室に通うのをギャンブルだって言う人いないでしょ? FXもそれと同じだって言うの」
「それがどうしたんだよ。オレは別に英語なんか勉強しないぞ」
「あ、やっと喋ってくれた」

アミが心持ち喜んだように思う。
煙草を抜き出したオレにライターを近づけて、話を続ける。

「九電さん、さっき株は丁半博打だって言ったよね。つまり九電さんの中じゃ、株は勉強しても勝てるかどうかわからないってわかってるんだよ。それってギャンブルじゃん? 投資じゃないじゃん? 遊びでやるならいいけど、今日の九電さん、もの凄く落ち込んでるみたいに見えるの。お金が増えたとか減ったとかじゃなくて、全然楽しそうじゃないっていうのかな。このまま株をやってると、お金よりもっと大事なものを失っていくっていうか。うまくいえないけど、株は九電さんを幸せから遠ざけているような気がするんだよ」

株は丁半博打だ。
この考えはオレの中では動かない。

もちろんFXも同じだ。
上がるか下がるか、買われるか売られるか。
常にそのどちらかしかない。

ギャンブルではある。
しかし常に儲かり続けている人や常に損し続けている人がいるのも事実。
オレがその後者であることを考えれば、その逆も当然いることになる。

実際問題、オレが「下がる」と読んだ局面でその逆、つまり買いを入れていれば、今現在損している金額と同じ金額が利益になっていたことになる。
オレが損をしているのはただ単に「逆をやってしまった」ことに起因する。

難しいことなどない。
売りと判断せず、買いと判断していればよかっただけの話なんだ。

「九電さん、聞いてる? もしもーし」
「帰るよ、アミちゃん」
「えっ」
「終電がなくなる」
「あれ? まだそんな時間じゃないけど……」

アミちゃんがオレを心配してくれるのは嬉しい。
親身に話を聞いてくれるし、ありがたいとも思う。
しかし負けた後に慰められて、挙句にやめろだなんて言われるのは悔しい。
悔しいに決まっている。

ブログのコメント欄にも例の掲示板にもそういう人はいっぱいいた。
「お前に株は向いていない」「傷が浅いうちにやめておけ」

しかしオレはそういう「ありがた迷惑な助言」を斬って捨てて、株を続けてきた。
今更やめるなんてできない。
少なくとも、損してきた分を取り返すまでは、やめるなんて選択肢はない。

明日は土曜日だ。明後日は日曜日だ。
市場は動かないし、今のオレはポジションなし。
週明けの月曜日に突然の阿鼻叫喚は起こらない。

しかしオレはまだ諦めたわけじゃない。
たった二日であれだけ大損できるなら、短い期間で取り返すことも十分可能なはずだ。

見ていろ。
来週こそは絶対に儲けてみせる。
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