株で絶対に負けない方法は「株をやらないこと」です。
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今日も市場は大暴落。
オレのポジションも例に漏れずダメだった。
再び赤くなった画面。
この追証に対して差し入れる金は、もうない。
どの道強制的に決済されるならば、とオレは意を決して全てのポジションを決済した。
つまりは大損、これで完全なノーポジだ。
でもなんか、これでよかったのかな、という気持ち。
証券会社の口座に表示されている金は、初期の頃に比べれば随分目減りしたが、最後に差し入れた分の金、つまりオレから借りたオレの生活費の分は残ることになった。
投資資産を全て失ったが、生活は傾かず、借金もせず、ついに株から足を洗う決心がついたのだ。
もしかしたらこれが、株神様がオレにもたらした最後のご利益だったのかな、とそんなことを思う。
職場の面々は江坂さんが抜けて百田が加わった程度で変わりはない。
斉藤も無事職場復帰を果たし「迷惑かけた分は絶対取り返しますから」と百田以上に息巻いている。
さりげなくFXのことを聞いてみたら、本当に済まなさそうにしながら「辞めましたよ」と答えた。
重ねた借金の返済の目処が立つまでは、余計なことを考えずに仕事を頑張ることにしたらしい。
アミとは今後も同棲を続けるつもりらしいが、金銭面で世話になりそうなことを意識してか「滅多なことでは口答えしませんよ。今はアイツのほうが主導権握ってますからね」と空笑いしている。
結婚するつもりだとか言っていたが、もしそうなってもその力関係は変わらないだろうな、とオレは思った。
美砂はオレと過ごす時間が多少増えたぐらいで、職場ではあまり目立った変化はない。
お見合いのことは「彼氏ができたから絶対行かない!」と全力で突っぱねたらしいが、その気概を聞いていると「これで本当によかったのか?」と疑問が沸いてくる。
まぁ断る口実を明確にするために思っている以上のことを言ったのかもしれないが、アイツの場合、どこまで本気なのかわからない。
オレは今のところなるようになるか、と軽い気持ちで美砂と付き合っているが、そのうち何かしらの決断を迫られる場面もあるだろう。
そのときオレがどう答えるか、今はまだわからんが、一週間ぐらい前は斉藤も美砂も職場を去って、と少し寂しい気持ちになっていたから、とりあえず現状維持が続くようでよかったのかなと考えている。
昨日の美砂はオレも休みだと知るや否や「どっか面白いとこ連れてけ!」なんて言ってきた。
とりあえず映画とかが手軽で妥当かな? と思ったものの、最近の流行りだとかにまるで疎いオレは、近場のどこに映画館があるのかすら知らなかった。
結局TUTAYAに行ってお互い適当なものを二、三本見繕い、オレの部屋でダラダラ見てただけ、というつまらん休日の過ごし方をすることになった。
刺激も糞も何もない。
オレがいつも部屋でやっているネットサーフィンや動画鑑賞が「美砂と一緒に映画」に変わっただけの話だ。
晩飯の材料を、と二人で買い出しに出たとき、ふっと株の話題が出た。
美砂は「そんなことに使うお金があるんならもっと充実した晩御飯のおかずを買おうよ!」とオレが抱えたカップラーメンの山を売り場に戻していた。
もうなんていうか、嫁に財布を握られた悲しい夫みたいな状態になっているが、株のことについてはブログを読んでいた美砂の言うことにも一理あると思う。
損する瞬間すら楽しみに変えられるような人でなければ、あんな人を殺してやまない相場に生涯付き合っていくなんて無理だろう。
また財布にぎっちり詰まった金を見せられても困るし、当分は大人しくしておこうかな、というのが今の本音だ。
今日の昼休み、美砂が「お弁当を作ってきた!」と言って屋上にやって来た。
素材の貧困なオレの冷蔵庫から捻出される料理と違って、美砂の弁当は彩りも華やかな女の子、いや女性らしい弁当だった。
階下の食堂ですでに昼食を済ませていたオレは「食べる前に持って来いよ」と文句を言ったが、斉藤が割り込んできて三人でつついた結果、美砂の弁当は程よい充実感を与えるぐらいの役割は果たしたようだ。
斉藤が羨ましそうに「いいなー、真美も料理できたらなー」と言っていた。
「ねね、それより九電君さ」
「なんだよ」
「百田君の歓迎会なんだけどね」
「ああ、結局やることになったのか」
「うん。せっかくだからアミちゃんのお店に行こうと思ってさ。どうかな?」
「いいんじゃないか? 居酒屋で騒ぐより融通利くしな」
「斉藤君ももちろん来るよね? ね?」
「行きますけど、美砂さん、王様ゲームはなしですよ? 九電さんとベタベタするのは各々の自宅でやってくださいね?」
「な、何言ってんの! 斉藤君、若いなー。そんなこと、もうじき30になる私がするわけないじゃん」
「あれ? まだ二十代とか強調するのが美砂さんじゃありませんでしたっけ?」
「あはは、それは昔の話だよ。今を生きないとねー」
「九電さん、美砂さん変わりましたね」
「そうか?」
「ええ、そりゃもう180度」
「斉藤君ー、それは言い過ぎだぞ! あんまり私をからかうと、もうお弁当作ってきてあげないぞ!」
「あ、すみません、すみません。またよろしくお願いします」
「まぁ斉藤君に作ってくるわけじゃないけどね」
「知ってますよ、そんなこと。でもまた分けてくださいね。食堂より美味いですから」
「おぅおぅ、ちゃんとお世辞の使い方をわかっとるね、君! 九電君も斉藤君を見習いなさい!」
これが日常。
株の動かない平和な昼休み。
これでいいんだ、きっと。
オレはこれでいい。
早くもオレの悪口へと発展し始めた斉藤と美砂のやり取り。
オレはその様子をいつになく穏やかな気持ちで聞いていた。
いつまでもこの賑やかな雰囲気が壊れなければいいなと思いながら。
――と、言うわけで。
「九電男はスイングトレードをしているぜ!」は終わりです。
最後までお付き合いしてくださった方、お疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。
さて、ここでようやくネタばらしです。
途中で感づいた方もいらっしゃるかと思いますが、7月2日のブログ更新より始めたこの小説紛いの記事は、全て大嘘です。
途中で感づいた方もいらっしゃるかと思いますが、7月2日のブログ更新より始めたこの小説紛いの記事は、全て大嘘です。
本当なのは「オレが株の売買をやっていること」ぐらいのものです。
あとの内容はオレが空想した完全なるフィクションです。
オレはこんなにイケメンでもないし、モテるわけでもありません。
普段トラックに乗っているわけでもないし、特別カクテルに詳しいわけでもありません。
おそらく現実にこういう分野に関わっておられる人は「なんかおかしい」と感じたことでしょう。
すみません、嘘っぱちなのでリサーチ不足というヤツです。
記事に登場する人物も全員が架空の存在です。
モチーフとなった人もいません。
ちなみに彼女もいませんww
オレは10月にオリンパスで大損した日以降、株の売買を続けていくに当たって、市場と無難に付き合うにはどうすればいいかだけを考えてきました。
そのおかげか、今のところは安定した成績を残すことができていて「このまま面白くもない売買が続くんだろうな」と予感しました。
まぁそれがオレの思う「投資」でもあるので、今後もそういった売買を続けていくつもりではありますが、今まで散々ブログで書き殴ってきたような記事は書けなくなるのかな、と危惧していたというのもまた事実です。
4月にブログの更新を一時休止して以来、ポジションを公開しない更新を続けてきましたが、アクセスが落ちないことから「オレの長文を読むのが好きな人もいるのかな」と思い、ポジションを公開しない代わりに何かネタをやるか、と考え始めました。
それが今日まで続けてきたこれらの更新だったというわけです。
資産が大きく減った日は記事を書く気力が沸かなくなるだろう、という読みで、7月からの更新分は約二週間をかけて予め書き溜めておきました。
しかし市場がどう動くかわからないので、損をする予定になっている日の描写は「その日の動きを見てから逆のポジションをとっていたことにする」というつもりでいたので、記事を更新する際に描写を加えました。
読み返すと文脈に違和感があるのはおそらくそのせいだと思いますww
コメントに返信しなかったのは、嘘の話を信じ込ませるより最後にこういった形で注釈をつけるほうがまとまりがいいかなと考えたためです。
またオレの描写が甘いことに対する鋭い指摘に深く付き合うと、記事を最後まで公開する前に「フィクションだ」と見破られて、後半の内容が悪く解釈されるのではないか、と恐れました。
真剣にコメントを書いてくれた人、すみませんでした。
最初は一週間ぐらいで完結する予定だったのですが、最後まで書いてみたら意外に長くなって、文庫本一冊程度の量になってしまいました。
株と関係ない話がメインを飾っているというのもありますし、途中で飽きられたらどうしよう、と心配していましたが、実際どうなんだろうか。
と思って、下手スレを見に行ってみたら、いまいち印象が悪いようだww
お前ら、この話が実はガチで、九電は幸せになったっぽい、みたいな終わり方だったらメシマズとか思ってんだろ、どうせww
安心しろ、全て作り話だwwww
釣られたヤツざまあwwww
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