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株で絶対に負けない方法は「株をやらないこと」です。
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「犬も歩けば棒に当たる」

この諺は昔「犬がうろついていると人に棒で殴られる」というところから「余計なことをすると災難に遭うぞ」という意味だったらしい。
普段のオレの株売買はまさにそういう状態で「九電も注文すれば大損する」みたいな日々だった。

しかし現在はこの「当たる」というの部分が良い意味で解釈されて「出歩いていれば思わぬ幸運に遭遇する」という意味で使われているらしい。
今日のオレはまさにそういう状態で「九電も出歩けば幸運が訪れる」みたいな一日だった。

「犬も歩けば棒に当たる」

そう、今日はいいことがあったんだ。
株の売買とは全く別のところで。



日夜満員電車で会社まで通うオレは、自宅から最寄駅までの定期を持っている。
大抵の人がそうだと思うが、電車通勤をしている人は自宅から最寄駅の間でなら、自由に寄り道をすることができる。

仕事も終わって19時過ぎ。
普段のオレはあんまり出歩かないほうだが、今日はたまたま仕事が少なくて時間に余裕があったので、平日のアフターを過ごすことができそうだと思っていた。

同僚の斉藤を飲みに誘ってみたが、付き合ってはくれなかった。
何でも同棲中の彼女が帰宅する前に、部屋の片づけをしておきたいとかいう、聞きたくもない理由で断られたのだ。
仕方なくオレは日用品と食料の買い物にぶらつくつもりで、たまには気分を変えてみようかと思い、初めて隣の駅で電車を降りた。

スーパーで買い物すれば安く上げられることを知ってはいても、男独り暮らしのオレが普段立ち寄る店といえば、煙草を買うついでに食料を調達できるコンビニか、安い暇潰しに最適なゲーセンやカラオケ屋のある商店街などがメインだった。
気分を変えて隣の駅へ、とやって来てもオレ自身にそう変化があるわけでもない。
オレの足は初めて通るドーム型の商店街の中へ自然と向いていった。

夏服でも見てみようかなと服屋の前を通りかかったとき、今時珍しいバニースーツを着た二十歳ぐらいの女性に声をかけられた。

「お兄さん、独り暮らしでしょ。今晩暇?」

平日とはいえ、そこは駅前の商店街の一角。
人通りもそれなりにあるためか、最初はオレに声をかけてきているものとは思わなかった。
素通りしていこうとするオレの正面にバニーが回り込んで、どこぞの店のものと思われるティッシュを差し出して来たとき、オレは初めて彼女の顔を見た。
二十歳ぐらいと言ったが、彼女はどちらかといえば童顔で、背丈も同世代の女性と比べて低いほうだったので、セーラー服か何かを着ていれば何食わぬ顔で女子高に出入りできそうな容姿をしていた。

オレの目の前で差し出されたティッシュが止まっている。
オレは基本的にこういう何かの勧誘だとかアンケートだとかの類は参加しないほうなので、彼女のことは無視して先へ行こうとした。
しかし彼女は、そんじょそこらでバイトしているようなチラシ配りの連中とは違って、しつこかった。

「ねね? なんで独り暮らしだってわかったか気にならない? ほらお兄さん、そのズボン。ほつれてるよ。Tシャツも皺になっちゃってるし、彼女いないんでしょー」

オレの腰周りを指差し続けて、彼女はケタケタと笑った。
その様子はおかしいから笑うというより、オレのことを小バカにしている様に近かった。
普通、初対面でこれだけ失礼な態度に出られたら、腹を立てて文句の一つも言うか、呆れて無視するかのどちらかだろうと思う。
しかしオレはそんな負の感情を微塵も露にすることなく、その場に立ち止まり、大人しく彼女の差し出したティッシュを受け取った。

「彼女いないから、なに?」

つっけんどんに応対してみたが、彼女はマクドナルドの0円スマイルをはるかに凌駕するほどの可愛い笑みを続けている。
男が八割を占める花のない暗黒に勤めているオレにとって、彼女のオレにだけ向けられる笑みは、たとえそれが業務上の都合のものであっても、悪い気はしなかった。

「怒らないでよー。もし彼女さんがいたら、私、悪いことしちゃってるなー、って思っただけなんだから」
「はぁ?」
「ごめんごめん。私、ただのお店の勧誘。よかったら飲んでかない?」

そう言って、渡されたティッシュを指差す彼女。
勧誘なんて言うもんだから、てっきり事務的なワープロ文字の並ぶ割引券か、如何わしいピンク系の写真の載ったヤツかと思っていたら、違っていた。
ティッシュ自体は透明のビニール袋に入れられただけの普通のポケットティッシュだったが、折り紙を切り取ったと思われる厚紙に『アミでーす!! 二十一歳!! 勤続暦三年でーす!!』という手書きのメモが入っている。
下段にお店の住所と電話番号とHPのアドレスが載っていた。

「アミちゃんって言うんだ」
「彼氏はいないよー。募集中なの」
「風俗かなにか?」
「まっさかー。ただのバーだよ」
「でもその格好、誤解を招きかねないよね」
「友達に借りたコスプレだよ。私、最近下火でさ。思い切った格好してみたら? ってアドバイスされたの」
「言っとくけど、オレ金ないよ?」
「うん、でもその分いいお酒出すから」

元々飲みに行こうと思っていたわけだから、彼女との出会いがなかったとしても、オレは適当な居酒屋で夕食を済ませていたかもしれない。
居酒屋での独り飲みは寂しい。それにどうせ帰っても独りだ。
話し相手がいてくれるならそれに越したことはないし、相手が女の子だったらなおのこと嬉しいのも男として当然。
妙なボッタクリバーだったら囲い込まれる前にとんずらすればいいかとオレはあまり深く考えなかった。



バーなんて普段行き慣れていないオレにとって、店の雰囲気はとても馴染めたものじゃなかった。
バーテンダーと思しき四十前後の男は、カウンターの端の席に座った常連客との談笑に花を咲かせているし、お店の女の子と思われる娘たちは団体で来ているらしい連中と合コンみたいな雰囲気ではしゃいでいる。

お通しをもらって、モスコミュールなんてものを注文してみたが、オレの周りに人はゼロ。
結局独り飲みと変わんねーな、と煙草に火をつけたとき、端の常連客が席を立った。
バーテンダーにひと言「帰る」とだけ告げ、財布を開いている。
どれくらいいたのか、どれくらい飲んでいたのかまるでわからないが、客が万札ではなく、千円札を数枚取り出したのを見て、とりあえずボッタクリ系統の場所ではないのかな、と少し安心する。

灰皿とグラスを一つ置いただけのオレはどうしても暇になる。
だから煙草片手に携帯を開くのはごく一般的な行動心理だろう。
今日は仕事もまぁまぁ暇で、配達の合間にもチラチラ値動きを伺っていたわけだが、考えてみれば終値がどうなったのか確認するのを忘れていた。

画面を開くと、おなじみの株ツールは、珍しくオレの勝利を知らせてくれた。
事前に知っていた売り持ち銘柄の下方修正が大きく利益に貢献している。
まぁ14時見たときにかなりの利益が出ていたものだから、後場の一時間でそうそう状況が悪くなるとも思えない。特に驚きはしなかった。

前場の出来高が多いうちは金額が上下するたびに「ああ!」だの「うぉっ!」だのと言っていたが、さすがに後場に入ると動きも落ち着く。
このところはポジションに割く金を大きくしていっている傾向にあるから、後場でも少し出来高がつくと焦りもするが、どのみちに利益になりそうなのと、損に転換しそうなのとでは大きな隔たりがある。
今日は比較的、安心していられる動きだった。

株ツールを閉じると、続いて某巨大掲示板閲覧用のツールが目に入った。
どうせ例の下手スレでは今日もまた、良くも悪くもオレの噂話が飛び交っているに違いない。
オレに関係ありそうなレスを探してみると、今日のオレの勝利を知った連中が感嘆を漏らしていた。

普段から書き込みがオレにとって気分の良いものであれば、喜び勇んでレスを待つというものだが、悪口のほうが声高にかかれるのが掲示板というヤツだ。
負けた日は資産の減少に加えて罵詈雑言がオレの心を苦しめるのが日常となっていた。

いつだったか「メシウマ」という言葉が流行った時期があった。
「他人の不幸で飯が美味い」だったか、これを略語として、憎らしいAAをつけたものが所謂「メシウマ」だ。
株式市場の中では毎日毎日大儲けと大損が繰り返されている。
当然のことながらオレ以上に大負けするヤツというのもかなりの数いると思うが、オレは過去に専用スレまで立てられた正真正銘のピエロ。
オレが不幸になればなるだけ掲示板に張り付く住民たちは「メシウマ」と言って大喜びする。
なんのことはない。人間の醜い部分を露にしただけのことだ。

くだらないとは思う。
しかしオレは「メシウマ」されていようと別に構わない。
目的は株で勝ち、利益を得ること。
オレが喜ぶのは株で儲かったときだ。
他人がどうとかまるで関係ないのだ。

「お疲れ様ですー。全部終わりましたー」

思想に耽っていて忘れていたが、今のオレはバーに独り飲みに来ているんだった。
空になった籠を店の隅に置いて、さっき出会ったバニー姿の彼女が入ってくる。
名刺代わりに渡されたティッシュによると、名前は確かアミ。

「アミちゃん、お疲れー。お客さん来てるよ」

来店以来、初めて注目された気がする。
バーテンダーがオレのほうに手を向けると、アミはこれでもかというほど嬉しそうな顔をして見せた。

「あ、ホントに来てくれたんだー。ちょっと待ってて。着替えたらサービスするから」

サービスしてくれる、らしい。
ピンク方面を想像したが、それに身を委ねると奥の部屋から黒スーツの強面が登場しそうな気がしていたので、オレは「お構いなく」と客に似つかわしくない態度を取った。

着替えてきたアミが何をするのかと思いきや、おもむろにバーテンダーからあの「カクテルを作るためにシャカシャカふるコップ」を取り上げて、後ろの棚から英語ラベルを貼り付けたボトルを何点か見繕った。

「お兄さん、甘いのは好き? フルーツ系なら私も大体わかるよ」

続いてアミはオレが適当に注文したモスコミュールについて、ちょっとした物知り顔で説明して見せた。
専門用語はいまいちわからんが、どうやらウォッカをベースにしてジンジャーエールが入っているらしかった。
それを見て「オレは甘目が好み」と判断したのだろう。
アミは空になったオレのグラスを取って、頼みもしないのに薄い水色が綺麗なカクテルを注ぐ。

「アミちゃん、初対面のお客さんにはいつもそれ出すね」

オーシャンブルーフィズとかいうヤツらしい。
バーテンダーが苦笑している様を見るに、アミはどことなくプロっぽい話し振りをしているかと思ったら、レパートリーの一種をオレに勧めてきただけのようだ。
まぁティッシュ配りで呼び込みをしているようなバニーが一流のバーテンダーというのも変な感じだし、自分についた客に格好いいところを見せようといったところか。
照れ笑いしているアミがちょっと可愛い。

注いでもらったカクテルをひと口飲んでみると、なかなか美味い。
女の子がオレのために注いだという補正が効いているのかも知れなかった。

その後は「お兄さん、名前は?」から始まって、簡単な自己紹介をさせられた。
話し相手が欲しかったオレは、カクテルが進むのに平行して徐々に饒舌になっていく。
初対面の相手に株の話までしてしまったのは酒の勢いのせいか。
しかしアミは思いの他、目を輝かせて食いついてきた。

「九電さん、株やるんだ」
「まぁ嗜む程度にね」
「じゃあ結構儲かってたり?」
「いや最近はあんまり。今は世界経済が低迷してるから」
「そうなんだ」
「アミちゃんは新聞とか読まないの?」
「あはは、そんなの全然! 本なんてファッション雑誌ぐらいしか読まないよ」
「今は大変な時期なんだよ? 6月にギリシャの総選挙があったの知ってる? 緊縮派が当選したから良かったようなものの、そうじゃなかったら国一つが消えてたかもしれないんだよ? 日本だって今よりもっと不景気になっただろうしね」
「いやー、全然わかんないなー。不景気になったらどうなるの?」
「そうだな。オレもそんなに詳しくはないけど、まず景気が悪くなるってことは企業の業績が落ちるってこと。要はみんなが商品を買ってくれなくなるわけ。このお店でたとえると、お客さんが少なくなったり、常連さんが頼んでくれるカクテルの量が減ることになる。となれば、従業員のお給料も払えなくなって、減給になるとか、最悪の場合クビになるとかになってくる。アミちゃんもお給料が減ったら、買おうと思ってた服を諦めたりするよね? となれば、今度は服屋のお客さんが減る。そしてここでもやっぱり減給とかクビとかって話になってくる。となれば今度は服屋の店員さんがね」

調子に乗ってにわかな知識をひけらかすオレ。
我ながら何を言ったか思い出してみると、相当イタイ気がする。

ここはピンクな店とはちょっと違うみたいだが、女子を隣にいい気持ちで話をする環境は、一般的な風俗と近い感覚がある。
アミは興味があるのか、それともなくても客のオレに合わせているだけなのか、飽きもせず懸命に相槌を打ってくれている。
客をもてなす術は熟知しているといったところか。
オレもなかなか楽しい。

「でもあれだね。経済なんて話題振ってくるの九電さんぐらいだから、新鮮だなー」
「そうか? 誰でも社会に参加している身なんだし、無関係ではないと思うけど」
「それでもさ。自分のお金で株を買ってまで勉強しようと思うなんて、九電さん、えらいと思うよ」
「勉強だなんて、そんなに凄いことはしてないよ。ただ給料の他にちょっとでも儲かったらいいかな、と思ってるだけで」
「九電さん、これはあくまで女の子としての意見なんだけど」
「ん?」
「仕事以外の場に自分のテリトリーを持ってる男性って素敵だと思うのね。なんていうのかな。私は不景気って体感したことないから、よくわかんないんだけど、今の世の中って、どんなに優秀な人でもリストラに遭う可能性を秘めてるわけじゃん? だから仕事だけ一途に頑張ってるだけの人ってさ。もし自分にそういうときが来たら、そこからどうにもならなくなっちゃうって思うんだ」
「そうかもね」
「でもさ、九電さんみたいに自分で考えて行動できる人だったらさ。たとえば自分に予期しない不幸なことが起きてもどうにかやっていけそうな感じがするんだよね。たくましいっていうのかな。女の子としては、そんな人に憧れちゃうっていうか」

アミは心持ち顔が赤くなっているみたいに見えた。
酒を飲んでいるのはオレのほうだから、別にアルコールで上気しているというわけでもなさそうだ。
アミはテーブルの上で組んだ指をコネコネしている。
さり気なく薬指を見たら、指輪のようなものは嵌っていなかった。

「九電さん」
「な、なに?」
「また来てくれるよね?」

何を言われたのかと思ったが、時計を見たら十一時に差しかかろうとしていた。
お店の閉店時間まではしばらくある。しかし途中下車で寄り道している身のオレからすれば、そろそろ出ないと終電に間に合わなくなる頃合だ。
まぁ隣の駅だし、歩いて帰れないこともなかったが、酒の回った状態でひと駅歩くのは結構な重労働だ。
それに定期で無料で電車を使えるというのもある。
オレは残った酒を飲み干して帰る旨を告げた。

アミがレジに周り、領収書を打ち出す。
今思ったが、バーで飲むカクテルは結構客が独自に注文してくるメニューが含まれているためか、一般的な飲食店と違って個別の料金が細かく設定されてはいない。
細かいところもあるとは思うが、この店は割とどんぶり勘定的なシステムをとっていた。

領収書には3000円と書かれている。
その下にアミが手書きで記した携帯番号が載っていた。

「安くない? 五杯ぐらいは飲んだと思うけど」
「そんなことないよー。今日は私も楽しかったし、サービスの範疇」

最初に言っていたサービスってのはこういう意味だったのか。
まぁ応対してくれた相手がこう言っているんだから甘えておくことにした。

斉藤が来てくれなくてよかったと思う。
男同士で盛り上がるより楽しいアフターを過ごせたことでオレは気分がよかった。
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